工業簿記とは?

簿記3級で簿記の基礎を学びました。簿記3級では「商品を仕入れ、販売する」という活動についてでした。
この「完成された商品」を仕入れて、そのままの形で販売する形態で使用される簿記を商業簿記と呼びます。
簿記2級では商品を自社で製造して販売する活動についても学びます。この活動形態の簿記を工業簿記と呼びます。

例えば、車を作っている会社やパソコンを作っている会社などのメーカーと呼ばれる企業は工業簿記を行う必要があります。

製造業だね。

突き詰めて考えると、材料の仕入と商品の販売は商業簿記と同じと言えるので、工業簿記=製品1個の原価を求めることと見なすことができます。

工業簿記は狭い範囲を深く深く追求していく考え方です。工業簿記のやりたい事は、貸借対照表の「棚卸資産」、損益計算書の「売上原価」を求めることだけです。一方、商業簿記は一年間の商売の流れ全体を学習範囲とします。広く浅いイメージです。

工業簿記の目的である「製品1個あたりの原価を求める」とはどういうことなの?

何かを作るためには原材料、人の労力、機械を使うなら電力などが要ります。こういった様々なものをお金に換算して製品1個を作るのにいくらかかっているのかを計算します。

実はこの計算、めちゃくちゃ大変です。

そうなの?

原材料は特定の製品に帰属させることが比較的簡単なのですが、電力料や水道料金、減価償却費など複数製品に関係のある費用を的確に配分することは困難極まりないのです。

しかも製品の種類が何百、何千にもなってくると、もう・・・気が遠くなります。結局のところ、工業簿記(原価計算)はいかに製品ごとに適切な原価を配分してあげるかに尽きます。

しかし簿記検定では比較的単純な問題しか出題されません。製品の種類は多くても3種類前後ですし、製造工程もせいぜい2工程くらいです。(現実では製品数が何百もあり、1製品の製造工程数が何十というのもざらです)

簿記検定に限って言えば、工業簿記はパターンを覚えてしまえば機械的に解ける問題です。時間の限られた試験ですから、そうせざるを得ないのでしょう。ただし工業簿記の考え方には若干理解しにくいところもあります。
そもそも原価って何?

原価というのは経済的資源の消費額を指します。商売は何かモノを販売します。そのモノを手に入れるために要した金額を原価と呼びます。収益に直接対応する消費額といえば良いでしょうか。例えば八百屋さんが@100円でリンゴを仕入れ、それを@150円で販売した場合、このリンゴの原価は100円です。

損益計算書には一番上から順に売上高、売上原価という項目が載っています。売上原価が売ったものに対する原価です。仕入金額を示しているわけです。

商品以外の建物や土地を売った場合でも、その建物や土地の帳簿価額が原価に相当します。

一方で営業や経理が事務用品の鉛筆を買ったとかは原価ではありません。これは費用に該当します。(蛇足ですが損益計算でマイナスに属するものには原価、費用、損失の3種があります。「収益と費用」の費用の中に3つの区分があるのです。原価は収益に直接関係するもの。費用は収益に間接的に関わるもの。損失は収益とは関係なく、突発的に発生したもの。そんな認識でいいでしょう)

費用といっても性質が色々あるんだね。

製造業が販売するモノは、自社内で製造した製品です。(八百屋さんの野菜のように仕入れたものをそのままの形で販売するものを商品、製造業が自社内で加工して作り上げるものを製品と呼び分けています)

モノを作るためには材料や人間の労力・時間、電力・ガス・水道、機械、設備、様々なものが必要です。これらを消費して販売すべき製品を生産します。消費した材料などを金額に換算したものの合計額が原価になります。この計算がなかなか厄介です。
原価計算とは?

繰り返しになりますが、八百屋さんが売り上げた商品の仕入値を計算するのは割と簡単です。リンゴを1個100円で買ったなら基本的にこの金額が原価です。

一方、ケーキ屋さんがイチゴケーキを1個作ったらその原価はいくらになるのでしょう?使った小麦粉の量、作るのにかかった時間、レンジの使用時間。こういうのを積み重ねてやっとこさ金額が判明します。
この原価を計算する手法のことを原価計算と呼びます。 そのまんまな名前ですね。
「製品一個を作るのに何円かかったのか?」
この問題を解くために原価計算は開発されました。
原価が分からなければ何円で販売すればいいのかも分かりません。
ケーキ1個を150円で売っているけれど、その原価が実は200円だった、なんてことになっては商売が成り立ちません。
適切な売価を設定するためにも原価を知る必要があるのです。
元々は原価を知ることを目的とした原価計算ですが、
時代の変遷、経済発展に伴いその要求される役割が拡大されてきました。
続きは次の項で。